2018年4月のどうぶつえん日記

ページ番号1001896  更新日 2022年8月25日

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2018年4月18日(水曜日)ホッキョクグマの同居について

4月12日をもって今シーズンの繁殖に向けての同居を終了いたしました。
結論としては、メスのミルクに今季は発情徴候が見られないと判断いたしました。ミルクは今年で6歳になります。ホッキョクグマでは5歳で出産する例もあり、発情が見られる可能性がありましたが、当然個体差もあります。繁殖に重要な性ホルモンが安定するのは、オスもメスも8歳頃と言われていますので、ミルクにはまだ早かったのだと思われます。ただ、若い個体では、はっきりとした発情徴候が見られないことも多く、同居をして初めてわかることもあります。また、ヒグマでは若いうちに異性と接することで性ホルモンの値が上がるという報告もあり、繁殖可能な年齢に達していることから、今回、3月19日~3月24日と4月6日~4月12日の2回にわけて同居を試みました。回数を重ねるごとに2頭の警戒心が解け、その距離は近づいて来ましたが、最後までその緊張感は続いていました。

ミルクに突発性の下痢が見られたり、キロルに前足をかゆがる様子が見られたりと、2頭にストレスがかかっている様子が見受けられたことから、これ以上の負担をかけないよう、同居を終了することといたしました。

応援いただいた皆さま、見守ってくださいました皆さま、本当にありがとうございました。
今回は残念ながら繁殖行動は見られませんでしたが、来年に向けての確実な一歩を踏み出せたと感じております。

さて、同居がどのように進められたのか、気にかけてくださっている方も多いと思いますので、簡単に(長くなるかな…)説明させていただきたいと思います。

これまで釧路市動物園では、さまざまな個体の同居を行ってきました。

初代タロ(オス、同居当時2~3歳)×コロ(メス、同2歳)、その子どものクルミ(メス、同12歳)×ツヨシ(メス、同5歳)、デナリ(オス、同16歳)×クルミ(メス、同13歳)、雪夫(オス、同25歳)×ツヨシ(メス、同9歳)と年齢も性別もさまざまです。

タロとコロは幼い内から同居をしていたため、大きな闘争もなく同居できたようです。

クルミとツヨシのときにはその体格差(クルミの方が大きかったです)から、クルミに精神安定剤を飲ませて同居を試みました。当初こそツヨシがクルミを怖がる様子を見せていましたが、最終的には良き友達として過ごせるようになりました。

デナリとクルミのときはさほど心配はしておりませんでした。デナリのメスの扱いのうまさはよく聞いていましたし、何よりも釧路市動物園に到着して、すぐその日のうちに飼育員の手から直接餌を食べる位のおおらかな性格。気の強いクルミの相手も上手にこなしていました。同居の始めこそ、クルミがデナリに向かっていき、デナリから鋭いパンチをくらわされましたが、その後は怖がるクルミにデナリはなんとも紳士的に近寄り、しっかりとした交尾ができるところまで行きました。

雪夫とツヨシのときもまったく心配がありませんでした。雪夫は高齢であり、ツヨシの運動能力には到底かなわないので大きな闘争には至らないだろうと推測していました。案の定、最初こそ雪夫が追いかけまわしましたが、ツヨシが余裕で逃げ切れるので、お互いの間に大きな緊張感が生まれることがありませんでした。

そして、キロルとミルクです。

別々に展示しているときにはわかりにくかったかもしれませんが、2頭の体格差は非常に大きく、キロルが約350kg、ミルクは約200kgと150kg位の体重差があり、闘争が起きた時には生死にかかわることも予測されます。野生ではホッキョクグマのオスが子どもを襲って食べることもあり、メスにとっては繁殖(発情)時期以外のオスは天敵と変わりありません。メスに発情が来ていない場合、飼育舎内の限られた空間での同居は大事故にもつながりかねないのです。

同居当初から皆様には温かく見守っていただいていましたが、スタッフとしては「温かく」というよりは「緊張して」見守っていました。
そのため、今回はこれまでになく、人止め柵を設けて観覧場所を閉鎖し、スタッフが動きやすいスペースを確保するなど、万一の事態に備えました。
できるだけオスの攻撃性をなくすために、キロルには事前に1週間前から不安や攻撃性をなくす精神安定剤を投与しました。

開始の日、というよりも扉を開けた「その瞬間」がもっとも事故が起こる可能性が高いため、園長はじめ、飼育員、学芸員、獣医師総出で同居に立ち会いました。
万一の闘争に備えて、飼育舎の屋上からの放水、爆竹やロケット花火などの準備をしました。本当に最悪の場合は、麻酔をかける可能性もあり、麻酔がかかったまま水没することも想定されることからドライスーツも用意していました。(一人で引き上げることはできませんよ。かろうじて呼吸ができるよう頭を水上にあげておくだけです。)

写真:ドライスーツの準備をする様子


いよいよ扉を開け、同居開始…。ほぼ予測通りの行動を2頭は取っていました。キロルが出てくるとミルクが逃げ、追いかけまわし、緊張状態から小競り合い、その勢いでミルクがプールに落ちる。想像していた通りの行動だったので、ホッと一息。さあ、ここからオスがプールに入り徐々に距離を詰めて、水中での小競り合いが起こる可能性がある、と気を引き締めていたところ、キロルがなにやら寝室に帰りたそうな素振りをするではないですか!?
初日は1時間ほど同居させるつもりでしたが、最初から嫌な記憶を植え付けたくなかったので、たった30分ほどしか経っていませんでしたが、帰らせることにしました。いや、それでも普通オスはメスが気になって帰らないものだけど…、と思いつつ扉を開けると、スムーズに寝室に帰って行くキロル。スタッフ一同、ホッとした反面、ちょっと気が抜けました。

もともとキロルは他の個体とくらべると神経質で繊細です。たとえば、トレーニングを行っていて、餌を出すのが遅れてもたつくと、ミルクはすごい剣幕で怒ります。吠えたてて、柵をガンガン殴って怒ります。男鹿水族館のスタッフに伺ったところ、父親の豪太も同様のようです。ミルクは父親に似たんですね、きっと。ツヨシは唇をとがらせて、なにか文句を言いながらもじっと待ってくれます。キロルは途端にテンションが下がって、「あー、もうヤダ…、すっごいやる気なくした。」と言わんばかりに離れていきます。
そんなキロルにとって初めてミルクと同じ空間にいるのは、とても耐えられないことだったのかもしれません。

それでも2日目以降はキロルもすぐに帰ろうとはせず、お互いに警戒心を持ちながらも、好奇心から少しずつ距離が近づき、近づき過ぎたら小競り合いが起こって、緊張状態になり座り込む、という繰り返しでした。

写真:2頭のホッキョクグマ1
左:ミルク 右:キロル

緊張状態にはなりますが、距離間が近くなってきて、良い傾向だなと思っていましたが、4日目以降にミルクが顔を掻いたり、キロルが前足をナックル(手の甲側を地面につけること)したり、6日目にはミルクが砂を食べるという異常行動が見られるようになったため、一時同居を見合わせることにしました。

ホッキョクグマの発情時期は1月末から4月いっぱいです。残っている時間はあまりないので、4月6日から同居を再開しました。キロルの行動は前回とほとんど変わりありませんでしたが、警戒心よりも好奇心の方が勝っているようで、ミルクとの距離は前回よりも縮まっていました。ですが、ミルクの方の警戒心が強くなっていて、2日目には同居前に下痢をしたり、キロルが出てきたらすぐに伏せた状態になって、できるだけキロルを刺激しないように我慢している様子でした。そういった緊張状態にあっても、お互いに鼻先であいさつをするようになるなど、ちょっと進展が見られるようになりました。

写真:2頭のホッキョクグマ2
左:ミルク 右:キロル

しかし、5日目からキロルもミルクも体を痒がるようになり、ストレスが大きくなっている様子が見られたので、7日目の4月12日に同居を終了することにいたしました。

この同居でお互いの存在に慣れるという進展はあったと思います。ただ、この期間を通じてミルクが常にキロルに後ろを取らせることがなく、緊張が強いときはお尻を壁につけたり、しゃがみ込んでお尻を隠したりといった行動から、ミルクにはまだ発情が来ていないと判断しています。

今回の同居が刺激となり、来季、年が明けてまた一段とおとなになった2頭がどういった行動を取るのか、いまからとても楽しみにしています。

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