タンチョウ保護増殖事業のページ

タンチョウ保護増殖事業について

1975年に開園して以来、釧路市動物園は国の特別天然記念物であるタンチョウの保護増殖に取り組んでいます。1982年には敷地に隣接してタンチョウ保護増殖センターが開設され、また現在では釧路市丹頂鶴自然公園と阿寒国際ツルセンターを含めた3施設の共同で、タンチョウが将来も生息できるよう努めています。野生動物の絶滅を防ぐためには、大きく分けて、本来の生息地での個体の増殖や生息環境の改善を図る「生息域内保全」と飼育下繁殖個体の増殖、再導入によって野生個体群を補強する「生息域外保全」の2つの考え方があります。当園では主に傷病個体の保護、飼育下繁殖、放鳥などによる生息域外保全と、飼育個体の展示や得られた結果を基にした環境教育、普及啓発を中心として、タンチョウと人間社会とのより良い関係を築いていくために活動しています。
 
①保護事業
タンチョウの保護収容は1969年から記録が残っていて、当初は丹頂鶴自然公園で、当園が開園してからは当園が中心となって行ってきました。2015年までに761個体のタンチョウが保護または死体で収容され、生きて収容されたのは約4割、一定期間生存したものは2割弱、放鳥(飛去含む)したものは約5%です。軽傷のものや治療により回復したものは放鳥し、放鳥できなかったものは飼育下繁殖を試みたり、展示や教育に利用したりしています。収容された死体や、収容後死亡した個体は全て解剖し、死因の解明や各種検査を行っています。また、解剖後の死体や内臓は基本的にすべて冷凍保管し、大学等の研究機関と協力して病原体、寄生虫、重金属や環境汚染物質などの検査や、剥製、骨格標本作製など、各種研究や教育のため利用しています(図1)。

  


収容件数は80~90年代には減少していましたが、2000年頃から増加し、毎年20~30羽が運ばれてきます。タンチョウは様々な要因で収容されますが、何らかの人為的な要因が約7割、全体の約6割が何らかの衝突事故です(図2,3)。








  電線事故



上記に加えて、近年はシカ除けの防護柵や電気牧柵、防鳥ネット等への絡網や衝突、酪農家の家畜糞尿スラリーへの転落、タンチョウ同士の闘争なども増えています。収容個体の約4割が幼鳥やヒナで、野生のタンチョウでは幼鳥が全体の11%前後であることを考えると、幼鳥のほうが事故などに遭いやすいことを示しています(図4)。




収容は給餌場に集まり始める9月ころから12月にかけて増え、10月には特に幼鳥の事故が増えます(図5)。また近年では4月から7月にかけての繁殖期の収容が増えています(図6)。タンチョウの主な生息場所であった湿原の減少や、個体数増加による密度の上昇が続き、タンチョウの生息、繁殖場所が牧草地や湿原の端など人の生活圏に近づいたことが要因の一つと考えられます。また以前は阿寒町や鶴居村での収容が多かったのですが、近年は標茶町や十勝、根室管内での収容が増えており、タンチョウの生息域の拡大も反映しています(図7)。要因は地域ごとに特徴があり(図8)、今後はそれぞれの地域の状況に合ったタンチョウの保全策が必要です。














 
②増殖事業
タンチョウは、過去に一度絶滅寸前まで陥りました。その保護のため、野生個体群の保護や生息環境の保全と同時に、飼育下でタンチョウを増やして放鳥し、野生個体群を補強する試みも行われてきました。遺伝的多様性を保った個体群を飼育下で維持するため、血統の管理を行い、「今後100年間で現在の遺伝子の90%を保つこと」を目標として様々な活動を行っています
 
21:野外放鳥
放鳥は過去から継続して行っており、2005年以降にも10羽に標識をつけて放鳥しています。1980年代からは足環をつけて追跡しており、約6割は放鳥後1年以上生存し、無事繁殖しているものもいます。残念ながら死亡が確認された、或いは姿が数年確認できていない個体もいますが、2015年には以前に放鳥したものと合わせて7羽が阿寒や鶴居の給餌場に飛来しているのが確認されています。
 



22:血統の管理
先の目標達成のためには、血統の創設者(ファウンダー)として20羽程度が必要との試算があります。当園では主に放鳥できない野生個体を飼育下に組み入れることで、新たな血統を導入しています。タンチョウの飼育は鶴公園開園時の3家系から始まっており、家系図が作られています。どの血統が優勢であるかは血縁占有度の計算によってわかります)。占有度は家系によってかなりの差があるため、占有度の低い家系や、新たな家系の繁殖を優先して進める必要があります。開園当初から残っている血統に加えて新たな家系も徐々に増え、現在ではファウンダー数は19羽まで増加しましたが、このうち14羽は既に死亡しています。他にも子孫が全て放鳥され現在飼育下にいない個体がいるので、幾つかの系統はいずれ絶えることになります。そのため、今後も傷病保護と連携していく必要があります。
 
22:遺伝的多様性を保つ
血統を増やすほかに、失われる遺伝子を減らすことも必要です。遺伝子は親から子、子から孫へと移り変わる間に半分が失われるので、世代交代が少ない、つまり各世代が長く続くほど失われる遺伝子が少なくなります。親の誕生から子の誕生までにかかる時間を世代時間と呼び、雌雄ごとに計算をしますが、2015年時点ではオスで16.2年、メスで14.8年でした。10年前の2005年時点ではオス18.4年、メス14.1年だったので、オスではやや短くなっています。オスの世代時間の伸び悩みは、繁殖成功率が低いことや、ここ数年で高齢個体の死亡が続いたことが原因の一つと考えられます。近年は飼育個体が高齢化し、有精卵が出にくくなっていることや、若い個体のつがい形成が進んでいないなどの課題があります。現在、鶴公園開園から数えて飼育下での第5世代目までが誕生し、5世代目によるつがいの形成も始まっていますが、今後、次の世代の誕生に向けて、新たな個体を迎えつつ、飼育下個体群を管理していくことになります。
 
24:繁殖場所の確保
タンチョウは長命で、単独またはつがいでしか飼育できず、多くの飼育場所が必要です。そのため、当園だけでなく他園との連携が必要になります。1975年には岡山後楽園とタンチョウ預託契約を結び、1978年に1羽、また1982年には1つがいを移動したほか、近年は旭山動物園、円山動物園の2園それぞれに1つがいずつ繁殖貸与(ブリーディングローン)し、飼育下繁殖に取り組んでいます。2014年には旭山動物園で待望のヒナが誕生しました。また、2011年には、ニトリサルルンカムイプロジェクト(後述)の協力により、台北市立動物園にも1つがいを同様に繁殖貸与し、繁殖を試みています。
 

  台北市立動物園へ送りだされるタンチョウ



  野外でのタンチョウは、現在では1500羽を超え、一時期に比べれば格段に回復したと言えます。しかしながら、その背景には人による給餌や、農業被害、生息地の減少、事故の多発などが複雑に絡みあい、未だに危ういバランスの上で成り立っていて、数だけを見ていては本質を見誤ることになります。人とタンチョウとのより良い関係を作っていくために、他園と連携しながら、釧路でしかできない活動を今後も続けていきたいと思います。
 
③ニトリ・サルルンカムイ・プロジェクト
 2011年に、釧路市動物園と台北市立動物園との間で学術交流の覚書が交わされ、その一環として種の保存法に基づくタンチョウの生息域外保全事業が実施されることとなりました。また事業を支援し、タンチョウの種の保存に資するため、株式会社ニトリホールディングス、釧路市および北海道が連携協定を結びました。現在この協定に従い、台北市立動物園へ2羽のタンチョウ(ビッグ♂、キカ♀)が貸与され、つがい形成と繁殖が期待されています。また、年に1度、職員の相互交流も実施し、主にタンチョウの飼育、繁殖および救護技術についての研修や、飼育状況の視察を行ってきました。プロジェクト自体は2015年度で終了となるため、今後の個体の扱いなどが課題として残されています。



 

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